王子と奏

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しばらく無言で抱き合ったまま確かな安心感で 胸が熱くなる 泣きたい訳じゃなかったのに 勝手に涙が溢れ出す 今の俺達は完全に 違う世界から来た人間で、初めて見る世界に馴染めないでいた 奏には逢いたいと思っていた でも、その先までは 考えていなかったんだ 逢えた事だけに満足してしまったんだ 『凱……俺…』 「うん…わかるよ」 『やっぱり凱も?』 「ああ…何だか気持ちがな…楓の事は好きなんだけど…」 『何だか…自分が惨めって言うか…うまく言葉では言い表せないけど』 「そうなんだよな…何だかあんな二人を見てしまうと、今まで通りには…話せないって言うか…」 やっぱり凱もそうだったんだ 『どうしたらいいんだろう』 「だよな」 二人でベットに寝転びながら考える 凱の肩があたる 離れていても 体温を感じる 奏を嫌いになったとか じゃない だけど、何だか凄く不安で…気が付いたら凱に しがみついていたんだ 「クゥ…」 『どうしたらいいのかなんて…わからないよ』 「俺もわからないんだ」 凱が優しく抱きしめてくれた 裏切るつもりはなかった だけど 結果的に俺達は 最悪な事をしようとしていた 多分…ここには居られないと 感じていたのかも知れない キスを求めたのはお互いで 体を求めたのもお互いだった 罪悪感とか裏切りとか 浮気とか 今の俺達には関係なかったんだ もしかしたら 旅をしていくうちに 凱を愛してしまったのかも知れない そんなあやふやな気持ちが、お互いを引き寄せてしまったんだ 『凱…っ』 「空……後悔しない?」 その言葉に少し戸惑いながら答える 『凱が後悔しないなら』 「空…」 凱に名前で呼ばれて 嬉しかった 「後悔はしないさ」 『なら俺もしない』 寂しさを埋め合わせるように、激しく抱き合った 神様…俺達を地獄へ 堕として下さい…
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