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丁度良い木切れや忘れ物のスコップが落ちてたりしないかと辺りを窺ってみても、そう都合よく見つかるわけもない。
「どうやって穴を掘ろう……」
私の呟きを聞き留めると、クロスケはおもむろにコートの内ポケットから園芸用のスコップを取り出した。……準備がいいと誉めるべきか、それとも彼の内ポケットの容量を気にするべきだろうか。
「ありがとう、クロえもん」
「ぶっ飛ばすぞ」
微笑ましい会話をしつつ差し出されたスコップを受け取る。
やっぱりクロスケのものだけあってスコップの色も黒い。錆びひとつ見受けられないので新品なのだろう。少しだけ使うのが躊躇われたが、そう言っていられる状況でもない。私はコンが指した場所に黒いスコップを突き立てた。
「待って!」
突如上がった声に、私はクロスケをふり仰ぐ。腕を組み傍観を決め込んでいたクロスケは私に首を振ってみせた後、顎の先で私の背後を指す。「今のはアイツだ」
視線を滑らせると公園の入り口、車止めの間を抜けて制服姿の男の子がこちらへ向かってきているのが見えた。私は立ち上がって彼が近くに来るのを待つ。
「あの……」男の子は私の五歩程手前で足を止め、視線を泳がせてしばしの間逡巡していた。
その隙に私は彼を観察する。
背はあまり高くなく、まだどこかあどけなさが残る顔立ち。制服の胸ポケットには名札が付いているのが見えた。中学生だ。何故だか、初めて会った気がしなかった。
「あの、何をしてたんですか?」
男の子は私と私の手の中のスコップを交互に見比べながら訊いてきた。
私も少しの間スコップに視線を置いて考える。
「……ちょっと、掘りたくなって」
我ながら間抜けな回答をしてしまった。クロスケが露骨に溜め息をついたのが目の端に映る。中学生も少々面食らった様子だ。
「すいませんけど」男の子は言葉を選びながら口を開く。「そこは、掘らないでくれませんか」
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