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「どうして?」
「…………」
訊ね返すと彼は返答に困って渋い顔で口を引き結んだ。右頬にえくぼができる。
「あ……」
私の記憶が鮮明になるのと同時に、私の中の憑依魂も彼の存在に気付いた。
「どうしても、そこだけはダメなんだ……」男の子は絞り出すように言葉を紡ぐ。「そこには、俺の、俺への、贈り物が――あるんだよ」
魂が、大きく震えた。
憑依魂だけじゃない、私の魂までもが共鳴している。鳴動が、徐々に高まっていく。跳ね上がる。耳鳴りが、目眩が、足元もふらつく。五感に異常を感じる――感覚が遠ざかる。
いけない、引っ張られてる……。
「……けん、ちゃん」
つと頬を温かいものが伝った。手からスコップが滑り落ち、地面に音をたてて転がった。
「けんちゃん」
クロスケが眉を跳ね上げて私を見る。しかし私はクロスケを見ない。視界には不審さを隠せない表情の男の子がひとりだけ。
クロスケは舌打ちすると、手持ちのリストを選別し出した。彼もそこに立つ中学生が、憑依魂のイメージに居たあの男の子と同一人物だと気付いたのだ。少年の年格好に明らかにそぐわないものたちをリストから省いてゆく。
「けんちゃん……」
「……何だよ、どうしたんだよ、急に……何で、俺の名前……」
狼狽する少年をよそに、私はボロボロと涙を零した。
憑依魂を押さえ込んで主導権を取り返すことはできる。簡単に。でも、今はやめておくことにした。
その方がきっといいと思った。
「けんちゃん、ごめん、ごめんねぇ……約束」
少年は後ずさろうとしていた足を止めた。目を丸くして私を凝視している。
「ごめん、ごめんねぇ。わたし……約束、守れなかった……守り、たかったよぅ」
次々と涙が溢れてきて、もう前が見えない。喉の奥に熱いものがわだかまり、それが涙と言葉を産んでいた。
「けんちゃん、ごめん……ごめん、わたし、死んじゃったあ」
悲しかった。
死んでしまうのが、楽しみにしていた約束を果たせないのが、果たせない自分が悔しくて……悲しかった。周りのみんなが泣いているのがツラかった。わたしのせいでみんなが泣くのがツラかった――癒着した魂の境目から、少女の想いが濁流のように流れ込んでくる。遺される者たちへの強い自責の念が。
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