第一話 「眠る宝物」

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   けんちゃんは私の中に遠山美波の霊魂がいるということを、すんなりと理解してくれた。   「あれは、美波だったよ。俺にはわかる……」    そう言ったけんちゃんは、今は大人しい美波の片鱗を探そうと私の瞳の奥を覗き込んでいた。  突如姿を現したクロスケのことも死神だと言うと――少しばかり消化不良の表情が垣間見えたものの、何とか信じてくれたみたいだった。     「この木だよ」    裏門から入り、数ある遊具を通り過ぎ、グラウンドの片隅まで来ると、けんちゃんは一本の木を指して言った。   「この木は登りやすかったんだ。だからよくあの太い枝まで登って遊んでた……毛虫だらけの葉桜の時期以外はね」    コンは地面に飛び降りるとすぐに埋まっている場所を探し当てた。私はそこへ足を進めた。土は湿った粘土質で、あまり深くはスコップが刺さらなかったため浅く浅く土をどけていく。  すぐに土ではない固い感触にぶつかった。   「まあ、子どもがそんな深く穴を掘れるわけもないしな」    クロスケが腕を組んでもっともらしいことを口にした。私はその間もスコップを動かし、宝箱を数年ぶりに大気にさらした。  金属製のお菓子の箱だ。錆びが浮いて、ふたの境目には粘着テープが貼ってあった。土が入らないようにという配慮だろうか。けんちゃんは頭の回る子どもだったようだ。    私はテープを手にかけた。湿っぽいそれは未練がましく糸を引いて私の手にもまとわりつく。ベトベトした粘着液を手を擦り合わせてごまかすと、美波に語りかけた。    開けるよ?    美波が私の中で頷いたのがわかった。    しかしいざ開けようとすると、腐食が原因かふたが固くて開けるのに難儀する。制服が泥で汚れてしまうが仕方がない。箱を抱きかかえて指に力を込める。  クロスケとけんちゃんが見かねて手を伸ばそうとした頃、やっとふたは外れ落ちた。   「開いた!」    私たちは箱の中を覗き込んだ。そこにはビニール袋に入った紙があった。取り出そうと手を伸ばすと指先が箱の底のヒヤリとした空気に触れた。地中の冷たい温度。七年前の空気。  
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