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じんわりと景色が入れ替わり始める。
ふと、些細な違和感が心の片隅に引っかかった。その正体を掴もうとしたが、次の瞬間にはその違和感は消えてしまっていた。きっと大したことじゃないんだろうと結論づけると、移り変わる景色に悪酔いしないよう、私は目を閉じた。
大人になった数年後のけんちゃんは、公園のイチョウの根元を掘り返すだろう。その頃の彼は今よりもっと背が伸びていて、まだあどけなさの残るあの顔も精悍なものになっているだろう。でもきっとあのえくぼはそのままで。
幼いあの頃に思い描いていた未来。それに追いついた彼に宛てて、稚い子どもだった美波はどんな宝物を贈ったのだろうか。時によって価値が付加され、きっとそれはけんちゃんにとって、かけがえのないものに昇華しているだろう。何者にも代えられない、優しく切なく、尊いものに。
冷たい土の中、芽も出さずに眠り続ける宝物。その中身を知り得るのはこの世でただ一人――未来の彼だけ。
-- 眠る宝物・了 --
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