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1.
それは束の間の、仮初めの夢。
でも、それでも、臆病な私は、その甘い一時にしがみつかずにはいられなかった。
※ ※ ※
校門に他校の生徒がいる。
彼は誰かを待っているのか門柱に体を預け、通り過ぎる生徒たちの好奇の視線を浴びていた。
「ね、ね、カナエちゃん、あの人かっこよくなあい?」
ひそひそとマユが顔を寄せてきて初めて私は彼の存在に気付いた。
マユは一緒にお弁当を食べる仲で、お互い部活にも入っていないためこうして連れ立って帰ることが多い。といっても私は通学徒歩15分、マユはバスで30分と家自体は遠いので、肩を並べて帰るのはすぐそこのバス停までなのだけれども。
マユの言葉に視線を上げて校門に立つ長身に目を留めた。どこかで見たことのある制服だったけれども、どこの高校のものかはっきりとは思い出せなかった。
「いいなあ、背ぇ高い人ってかっこいいよねえ」
「身長だけ?」
「あ、違うよぉ? 雰囲気も重要だもん」
慌てて言い募るおっとりした友人をいなしながら、再び他校生に目をやる。
彼は足元にバックを置いてぼんやりと立っていた。
自分が注目されていることなんてどこ吹く風といった様子だ。
この寒いのにコートは羽織らずに暖かな色のマフラーだけ。でも校章の入ったグレイのブレザーの中から紺のセーターが見える。それでも薄着な方だ。寒さに強いのだろうか、うらやましい。こっちはダッフルコートの下に何枚着込んでると思ってるんだ。
歩くにつれて距離が縮まるとじろじろと観察するわけにはいかなくなる。それでもやっぱり他校の生徒が校門で誰かを待っているというシチュエーションに好奇心をくすぐられてしまう。
「誰を待ってるのかなあ。彼女とかかなあ……」
どうやらマユは好奇心の他にも何か思うところがあるらしく、そわそわとして私の制服の裾を放してくれない。
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