夢のお話

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   今年初めて見た夢について――      私はバスに乗っていた。  満席とは行かないまでも、ちらほらと乗客が見える。私は生まれてから一度もスキーをしたこともなければ、遠距離バスに乗ったこともないのだが、何故だかこのバスが『雪山』に向かう長距離バスであり、私はスキーをする為に乗り込んでいるのだと認識していた。    そもそも、最初から私はウキウキとした気分で何が嬉しいのか、ひどく楽しくて自然と笑みがこぼれるような状況だった。    そんな気分の中、前方に仙人の様な容貌の老人が居るのを見つけた私は、その老人から目が離せなくなってしまったのだ。    老人のまわりには若い男が3人……彼らは老人を『先生』と呼んでいた。    夢の特権で、座席が離れていても、私には彼らの会話が全てわかるのだ。    若い男達は、しきりに老人にゴマをすっている。   「先生、こうして先生のお供をさせていただけるとは、光栄の至りでございます」   「全国に何千、何万と居る弟子の中で、こうして先生直々に技をご伝授いただけるとは」   「どんな厳しい修行もやり遂げてみせます」    どうやら彼らは雪山に何らかの修行をする為に向かっているようだ。    一体この老人は何の先生なのだろうかと、私はあれこれ考えている。だが、さっぱりわからない。    私はすでに笑い出したいのをこらえるのに必死だった。    何故なら、男達に賛美され崇められているこの老人――彼らの言葉にいちいち神妙な面持ちで『うむ』などと答えているのだが、その格好たるや白いフンドシ姿なのである。    そしていつの間にか、老人はバスガイドの様にこちら向きに仁王立ちになっており、弟子3人は通路に正座しているではないか。  しかも、白いブリーフ一丁で……。   『あんたら(笑)今時、ブリーフって……タムケンかょ』    私はうつむいて、クックッと笑いを噛み殺す。    例えば――お葬式の静まり返った厳粛な場で、お坊さんの頭にハエがたかっているのを発見したとしよう。笑いたいのに笑ってはいけない――その状況が余計にツボにハマり鼻の穴から笑いがこぼれるのを必死でこらえる辛さ。まさにそんな感じだ。   『先生』は弟子達におだてられつつ、満更でもない顔をしている。いや、それどころか、自分の技をひけらかしたくてウズウズしているのが、何故か手に取るようにわかるのだった。
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