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   何故だろう…。彼から目を反らすことができなかった… そして彼もまた、俺と絡み合った視線を反らそうとはしなかった。  どのくらいそうしていたのだろう…  視線を反らすことなく彼が俺の方へと歩み寄ってきた。 「――大丈夫か?」 「…え?」 彼は蹲っていた俺との目線を合わせ、俺の左頬へと手をのばしてきた。 「…泣いてる」 「……ッ!?」  いつの間に泣いていたのだろう。彼の手が涙を拭おうと俺の頬へ触れた瞬間、ドクンと心臓が大きく跳ねた。  俺は自分で涙を拭うこともせず、ただただ彼の吸い込まれてしまいそうなほど澄んだ瞳を、見つめ返すことしかできなかった。 「ごめん…俺のせいで怖い思いさせて…」 そう言いながら彼は俺を抱きしめてきた。 そしてまた、俺の心臓が大きくドクンと跳ねた。 いきなりのことで戸惑い、彼の腕の中から逃れようともがいたが、俺の背中に回された腕にギュッと力を込められてしまい、逃れることはできなかった。  逃れることを諦め、強張っていた体の力を抜いて、彼に身を任せ目を閉じた。 すると彼の体温や匂いを感じた…… 『…知らない人なのに、すごく…安心する……』俺は初めて人の温もりを知った… こんなにも温かで、安心するなんて知らない… ……ずっとこうしていたい。  いつしか俺は、彼の腕の中で深い眠りの底へと沈んでいった。 ◇  ◇  ◇ .
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