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「俺は大きな輪の中では馴染めないからね。だから入り辛いんだよ」
彼はいつも多くの友達と、楽しく会話をしているのを良く目にする。そんな男から出てくるのがこんな言葉だと、誰が想像できようか。それに私のこんな問いに、彼は戸惑うことなく素直に答えてくれた。だから私は虚を突かれたような顔をしていたのだろう。彼は私の顔を見て小さく笑った。
それが恥ずかしくて、彼に背を向けた。
不思議な気持ちだった。このまま話していると、いつもの自分ではいられなくなってしまうのではないだろうか。そんな気がしてしょうがない。
じっとしていると、足音で彼が近付いてくるのがわかった。そのときの私は、怖がっていたのだろう。彼からの言葉の一つ一つに、私は恐怖していたのだ。彼は私を見透かしている。たった一言で、私は彼を常人として見ることが出来なくなっていた。
「途中まで、一緒に帰ろうか」
その言葉は、またもや予想もしなかったもので、私は彼を見つめていた。
「大した理由なんかは無い。今日はあいつがいなくて、一人で帰ってもつまらないからさ」
なんだろう。この男は何か得体の知れない人間だというのに、私はそれに惹かれ始めている。
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