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蒼衣は、いつも通り練習道具を引っ提げ、クラスへと向かった。ドアを開けると、無数の視線が痛い。
教室内に足を踏み入れると、近付いて来る影が見受けられた。
「馬鹿じゃない。」
腕組をした一人の女子学生が、立ちはだかった。
「菜夜…」
「野球部だけ部活が出来るからって、調子に乗ってんじゃないわよ。あんたみたいな女子がいたら、このチャンスも、ことごとく逃しちゃうじゃない…」
もっと卑劣な言葉が浴びせられていたかもしれない。しかし言葉を遮り、
「僕の仲間に、手を出さないでくれる。」
「渚!」
割って入ったのは、渚だった。驚いた菜夜は、たどたどしく口を開いた。
「だって…迷惑なだけじゃない。一人だけ女子が混ざって、野球をしてるなんて。…入江君が困るじゃな…」
その言葉を聞いた途端、渚は笑いだした。だが、目は笑っていない。睨みつけているのかどうなのか、分からないような、鋭い視線を菜夜に浴びせた。
「あんた、まだ知らなかったんだな。可哀想なやつ。」
「え?」
「僕、男じゃないんだけどな。まあ、こんな喋り方するわ、態度だわ…名前も名前だからな、間違われる事は多いぜ。けどな、引っ越して来たの半年前だぜ。」
明らかに驚いてるらしい。声が出ないようで、その場で固まっている。
「行くぜ。」
渚はそう言って、蒼衣の手を引いて廊下に出た。
残された菜夜をはじめとし、女子学生達は、唖然とした表情を浮かべていた。二人が出て行った後、数秒遅れて悲鳴にも似たいろんな声が、飛び交っていた。
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