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『本当なら、貴方にも来て欲しかった……でも、それでは貴方まで犯罪者として扱われてしまう…………だから貴方は貴方として、私は私として、互いのために別々に生きることを決意した。』
シェリルは心の内でゼロスに話しかけるように思いを表し、ただ学長室の位置を見ている。
しかしシェリルも漆黒の堕天使という身分上、同じ場所に長く居続けることは危険だった。
学園の周りはただでさえ警戒が強いため、目立つ丘の上でいつまでも学園を見ているわけにもいかなかった。
『……もう時間……私は貴方に逢いたいけれど、それは今は果たされぬ願い…………運命の巡り合わせで逢えたら、その時は私は…………』
その思いを最後に、シェリルは漆黒の翼を夜空に広げる。
自らが与えられた運命を果たすため、そして再びゼロスに逢うためにも、彼女はまだ止まるわけにはいかなかった。
堕天使の器に生まれた者は自分の使命を知った瞬間から、その使命を果たすまでは止まることを許されない。
使命を終えた後も永遠の罪人として扱われ、命が尽きるその時まで自由は無い。
自らの使命を知るまで、一時の自由しか与えられない者……それが堕天使の器であり、それは代々続いてきた運命だった。
「ゼロス、私は今でも貴方が……」
シェリルはそこまで言いかけると、そこで言葉を切って闇夜に飛び立った。
漆黒の翼をその背に持ち、闇夜を翔けるその姿は正に堕天使と言える姿である。
ただ彼女は学園が見えなくなるまで、学園を見続けていたという。
だが無論、そんなことは誰も知らない。
ただ一人、堕天使と共に運命に巻き込まれた男を除いては……
「シェリル……」
学長室では、ゼロスがシェリルが飛び立った方角を見つめていた。
完全な暗闇に包まれた新月の夜、堕天使は学園に目を付けた。
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