ピストン

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わたくしはかつて、大きな大きな機械の、ごく小さな部品として動く機械でした。 小さなわたくしには、大きな大きな機械の在る理由も、わたくしの在る理由も判りませんでした。 わたくしはかつて、皆で歌ったり踊ったりして笑顔の絶えない花園に居りました。 上手く歌えなかったわたくしには、花園の在る理由もわたくしの在る理由も判りませんでした。 今わたくしは、見たり触れたりすることで誰かを「其処に在る」と決めてあげられる事を識りました。 それがわたくしの在る理由かも知れないし、違うかも知れません。 それでもわたくしは幸せです。 在ることが幸せ。 在る理由なんていりません。 誰かを「在る」と思わせられることが幸せ。 優劣なんていりません。 そうしてわたくしは考えることを止め、棄てられた仲間と触れ合いながら見詰め合い、世界の一部になりました。
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