モナリザ

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知らぬ顔の女が笑っていた。おそらく僕を見て、愉快そうに笑っていた。 微笑み返せば良いものを、僕は身じろぎもせず睨み返していた。 それでも女は笑っていた。 夢なのだから自由にすれば、女に抱きつくなりその場を去るなりすれば良いのに僕は、ただ睨んでいた。 愛でも憎しみでもない、ただひたすら機を伺う獣の目で。 或いは逃げる好機を探る草食獣のように、或いは捕える隙を伺う肉食獣のように。 女はただ笑っていた。 愉快そうに、だがどこか哀れむように。 何を語るでもなく何を問うでもなくただじっと見つめながら、女は僕に微笑んでいた。 抗うこともできず僕はただじっと睨んでいた。 流れに逆らう術を知らず、ただその身を任せる小枝のように。
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