273人が本棚に入れています
本棚に追加
知らぬ顔の女が笑っていた。おそらく僕を見て、愉快そうに笑っていた。
微笑み返せば良いものを、僕は身じろぎもせず睨み返していた。
それでも女は笑っていた。
夢なのだから自由にすれば、女に抱きつくなりその場を去るなりすれば良いのに僕は、ただ睨んでいた。
愛でも憎しみでもない、ただひたすら機を伺う獣の目で。
或いは逃げる好機を探る草食獣のように、或いは捕える隙を伺う肉食獣のように。
女はただ笑っていた。
愉快そうに、だがどこか哀れむように。
何を語るでもなく何を問うでもなくただじっと見つめながら、女は僕に微笑んでいた。
抗うこともできず僕はただじっと睨んでいた。
流れに逆らう術を知らず、ただその身を任せる小枝のように。
最初のコメントを投稿しよう!