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第六章
一人と一匹が海を深く潜っていく。底はまだまだ見えない。暗く広がる黒の世界はまるで星のない夜空を見上げているようだ。
俺は結構肺活量には自信がある。このまま竜宮城へ行けるか?とも考えたが底の見えない視界が続くと無理と思った。
もう海面はかなり上だ。
どのくらい潜ったのだろうか…。
そろそろきついぞ…。
しかし、限界を超えたら息ができるのだ。まあ限界がきてもいいではないか。
谷口はおもいっきり水をかいた。
酸素が足りない…。
きつい…。
谷口は太郎の方をちらっと見た。
なんと!太郎の勝ち誇った顔が!
息が出来るなんて…嘘なのか…?
薄れゆく意識の中で谷口は己の甘さに後悔した。
そして海中で太郎が叫んだ!
「騙されたな!馬鹿野郎!海で人間が息なんて出来る訳ねーだろ!あの世で後悔でもしてろ!バカバカバーーーカ!」
谷口は急いで海面に戻ろうとしたがもうすでに100メートルは潜っていた。息が続かない!
ぶくぶくぶく…。
谷口は哀しい目をしながら海底へ沈んでいった。
それから太郎は岸に上がった。
「あぁ、心にぽっかり穴が開いてしまった気分だぜ…。」夕日を眺め、目を細めながらつぶやいた。
一瞬とはいえ、親友とまで思った奴を騙して殺してしまったのだ。
太郎の頭の中に後悔の二文字がちらつきだした。
ヤバイ!ヤバイ!俺はなんちゅう事をしでかしてしまったんだ!谷口には本当に悪い事をした!俺らはなんだかんだ言って、親友だっただろ!?
「ごめんよぉーー!」
太郎は夕日に向かって叫んだ。
夕日に向かって叫ぶ自分がなんだかセンチメンタルでなんだかいい感じに思えた。自分が世界で一番不幸に思えたのだ。まるでドラマの主人公の如く…。
そしてその瞬間、太郎の中にあった罪悪感、後悔は消し飛んだ。太郎の中で加害者と被害者が入れ代わった瞬間だった。
「うおおぉ~~~~!」
意味もなく太郎は叫んだ。悲劇のヒロインぶりたいのか、まだ役にはいりきっているようだ…。
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