女王と帽子屋

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「…辞められないの。」 不意に彼女が言葉を漏らす。 「この世界の仕組みを知ってるから…。」 それは私も知っている。 この世界に産まれた者は、永遠の時間を手に入れる。 だから、誰かがその時間を取り上げないとこの世界のサイクルがおかしくなる。 このことは一部の者しか知らない。 だから皆、彼女のことを残虐な女王などと呼ぶ。 「私が辞めても、また私と同じように苦しむ女王が誕生する…こんな苦しみ、私だけで十分よ。」 そう言った彼女を抱き寄せ様として止めた。 私には、そんな資格はない。 あの時、彼女を連れて逃げていれば、少しは変わっていたのだろうか? 「いつか私の首もはねますか?」 「…ええ。」 「なら、できるだけ後にしてください。」 「それは命乞い?」 「いいえ、命なんて惜しくありませんよ。ただ、私が死んだら、こんな風に貴方を慰める者がいなくなるでしょう?」 にっこりと笑うと「自惚れね」と貴方は言った。 そして、少しだけ…昔の様に笑った貴方に、私は泣きそうになった。 「さて、落ち着いたならお茶でも淹れましょうか?ローズティーなんてどうです?」 「そんなものあるの?」 怪訝そうな貴方に、また微笑む。 「薔薇ならここにたくさんあるでしょう?」 「それ、私の庭のっ!!」 「上等な方には上等のものを。」 微笑めば、貴方は「美味しく淹れないと首をはねるわよ」と言った。 罪滅ぼしというわけではない。 ただ、もう二度と貴方を1人にしないと誓います。 亡ぶときはどうか共に… ―終―
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