神津幸英という男

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神津幸英という男

武田家が長篠に向かう直前に遼夜は幸英に喜英(幸英の実子遼夜の五つ下)と共にを呼び出された。理由は武田家の状況であった。そこには幸英と葬儀の日に集まった信君、信龍、喜兵衛がいた。 幸英が二人に告げる「武田家は近いうちに大きな打撃を受けるだろう、鉄砲の威力は騎馬を凌ぎ我等は……」元服したばかりの喜英は血気盛んに父、幸英の言葉を遮って言う 「臆したのですか父上、武田家が大打撃を被ると……三方ヶ原であれ程の成果を上げ、今では信玄公が落とせなかった高天神城を落とし飛ぶ鳥を落とす勢いの我々が負ける訳があるまい!!まして武田騎馬隊と言えば全国で恐れられる最強集団ではありませぬか!!」 遼夜は冷静にしかしどこかに熱いものを秘めたまま語りだした。「喜英の意見は正論かと思います。ただ……」 喜英が口を挟む「兄者まで弱腰なのか、父上の様に臆してしまったのか!!」 「いや、俺とて武田が負けるなぞ予想出来たとしても信じるつもりもないだが……」畿内の状況を把握している遼夜は続ける「今信長が畿内を掌握し、堺、そして雑賀を手に入れ鉄砲の数が計り知れないのは事実」 信君が「さようじゃ」と相づちをうつ 「このまま負けたくはないが暴走の果てに武田が滅んではお舘様にそして何より俺は妻に、空に申し訳が立たん」 遼夜が言い終えると、喜英は義理の姉のあの時の涙を思い出し、口を嗣ぐんでいた、夜の静けさの中を流れる風の音が響く、幸英は自分の案を切り出した「実は穴山殿、一条殿そして武藤(後の真田昌幸)殿とある策を考えている……」 幸英は遼夜と喜英だけに聞こえるような小さな声で話した。最後に「……という算段じゃ」遼夜と喜英は唖然ととした、喜英が怒鳴るように言った「いくら何でも無茶苦茶だ、成功の可能性が低い!!」と父に抗議する。「確かに無謀だがやならいよりはぁ良いんじゃねぇーか」傾奇者の信龍が喜英に言う。 『武田の滅亡は目と鼻の先にある』と考えていた遼夜は策の決行に最後の博打として賭けることにした。かくして長篠の戦いを前に大きな武田家の命運を左右する策略が着実に始まっていた。 『これが勝頼公の顔をみる最後かもしれん』幸英の謀略を頭に浮かべながら遼夜は戦評定に参加した。
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