ミタリア王国とドS執事

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寒い夜の事。 「も…ダメだ…お腹が…ギャハハハハハ!」 ニホンのお笑い芸人って…ホント天才! シャムレックはテレビを観ながらゲラゲラと笑っていた。 そして思い出す、陽良子の事。 陽良子はどんなお笑い芸人が好きなのかな? 陽良子はどんな俳優が好きなんだろ? 続く手紙のやり取りが楽しくてシャムレックは色々訊いてみたくなっていた。 遠い国…ニホン。 たった一度だけ訪ねた国には懐かしい匂いがして、堪らなく惹かれる何かがあった。 切なくて切なくて…涙が溢れた。 陽良子が作った料理には、そんな味がして落ち着く。 『シャムレックの前世は日本人かもね!』 そうかも知れない。 会いたいなー…。 誰でも…良かった筈なのに…。 陽良子…分からないよ…僕は…。 『失礼致します』 ノックの音と、聞き慣れた声。 「ヨハン、毎日ご苦労様だね」 「いえ、私は殿下の執事ですから」 ニッコリ笑うその姿。 当たり前が、当たり前じゃなくなっている。 ヨハンが傍に居て、落ち着いた気持ちになった事は一度も無い。 何かに急かされる様な…そんな気がする。 「そろそろ寝る時間ですよ?夜更かしは身体に良くありません」 「スイマメーン!」 「…嫌な事を思い出すのでお止め下さい」 嫌な事? 「ねぇ、嫌な事って何?」 ヨハンはこのギャグを知っている様だ。 こう云った番組を毛嫌いするのに…。 もしかして…陽良子? 「フフフ…うん、そうだね…言いそうな気がする…」 「殿下?」 「何でもないよ。ねぇヨハン、寒いね…僕を温めてよ…」 そっと伸ばした手が、冷たい頬をなぞる。 抱き締めた身体。 とても冷たい。 何故僕は彼を求めるのだろう。 彼は誰も愛さないのに…。 だからかな? しかし、ヨハンは突然離れた。 「…ヨハン?」 無表情なのに、瞳が泳いでいる。 「申し訳…ありません」 「…ヨハン、君はズルいよ…毎日毎日…楽しそう…僕も陽良子に会いたいなぁ」 テレビは爆笑を誘う芸人達が、ネタを披露し観客の笑い声が聞こえる。 半年間、毎日通うヨハン。 本当は陽良子にとても嫉妬していた。 ヨハンの纏う空気が温かい気がしたからだ。 会ってみて分かった。 陽良子は誰もが憧れる、太陽そのものだった。
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