ミタリア王国とドS執事

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言葉が分かれば城の全貌も理解出来る。 ここは城の南西にある小さな屋敷だと知った。 どんだけデカイんだ! 突っ込みたくなる程、この屋敷も広いのだ。 陽良子達が居る部屋はとても広い。 30畳の居間、15畳の食事ルーム、バス、トイレ、10畳のベッドルーム。 陽良子がこれを『部屋』と言う理由は、入り口とトイレ以外ドアが無いからだ。 と、云うか扉が外されている。 きっと監視の為にヨハンが使いの者に外させたのだろう。 初めにあった猛烈な違和感が半年経つと無くなるから不思議でしょうがない。 ヨハンは相変わらずのドSだが、面倒見は素晴らしく、言葉が通じれば良く動いてくれた。 日本での事もちゃんと教えてくれたので、陽良子の悩みはその時点で解決。 家族はとても喜んでいるらしい。 そりゃ一国の王子様から求婚された訳だからねぇー…あーぁ…。 学校の事は教えてくれないが、陽良子は何となく分かっていた。 きっと留学扱いになってる…筈? とても寒い冬から、割りと過ごしやすい暖かさになり、外の雪は溶けて緑がちらほらしている。 だが春はとても短いのだと知った。 「寂しい国だねぇ」 時折漏らす独り言に、ヨハンはとやかく言い返したりしない。 紅茶にブランデーを少し注いで身体を温める。 「ヨハン、お願いがあるんだけど…」 「何でしょう」 「…日本のご飯が食べたい…」 慣れてくると襲うホームシック。 「良いでしょう」 「ホント!?ヤッター!」 「ご自分で作られたらどうです?」 沈黙。 これは…嫌味なの? それとも…気遣い? 陽良子としては嬉しい限りなので、喜ぶ事にした。 「…チッ!」 「嫌だなぁ!ヨハンの心使いに感謝してるんだからぁ、そんなに拗ねないのっ!」 「貴女が楽しそうにしていると、無性に腸が煮えくり返るんです。陽良子様が落ち込む姿を見ていると癒されるのに…不思議ですね」 微笑むヨハン。 究極のドSだな…。 「もう泣かないよ。泣いたって…誰も助けてくれる訳じゃないし」 窓の外を飛ぶ鳥を眺めて陽良子は呟く。 ヨハンは傍で陽良子を見つめた。 黒い髪が少し伸びて、随分大人びて来た少女。 中々直らない寝癖だけが、変わっていない唯一の子供らしい処だった。
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