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陽良子の祖母はとても料理が上手な人だ。
皺くちゃの手が色々な料理を作り出していくから不思議だった。
それはきっと祖母の歴史なんだと思う。
屋敷の厨房で、陽良子は頼んでおいた食材を眺めて懐かしさに浸っていた。
お米、味噌、醤油、日本の野菜。
それ以外にも色々な食材が匂いを放っていた。
「これが日本の食材…お嬢様のお手伝いが出来ると良いんですがね」
コックのフランクは30歳後半で逞しい身体付きをしている。
顎髭を生やし、白い服装が不釣り合いだ。
だが腕は一流。
「フランクさん。アタシは『陽良子』で良いですよ?」
「ヒヨ…コ…コ…」
どうやらミタリア人に『こ』の発音は難しいようだ。
「じゃあ『ヒヨ』で」
「うん、ヒヨならOKだ。じゃあ私も同じ立場にならなければ。フランクで良いし、敬語は必要ない。ミタリア語をもっと上手にマスターするなら、仲良くしなくちゃな!」
二人はニコニコと笑って、他愛もない話をしながら食材に手を伸ばした。
「じゃあ…土鍋も頼んだし、ご飯を炊いて…餡子を作りまーす」
陽良子は慣れた手付きで米を洗い、水と一緒に土鍋へ入れて火を付けた。
「赤ちゃん泣いても蓋取るな。ご飯を炊くのは難しいの」
「手間が掛かるんだなぁ!」
フランクは土鍋をジッと見つめて、横に置いたボードに何かを書いていた。
料理の事は何でも知りたいし、試したいのだとフランク。
「次はお団子。中に餡子、皮はヨモギの葉を使って…丸めて蒸すんだよ」
ヨモギの葉をフランクに近付ける。
独特な匂いに顔をしかめて「こりゃハーブかい?」と陽良子に訊ねた。
「薬草になるから…ハーブと一緒かもね」
日本の食材の話をしながら、二人は手を動かす。
陽良子が王子の一応婚約者…らしい(陽良子も良く分かっていない)と云う事は屋敷の人々も知っている。
だが、底抜けに明るい陽良子の性格から、敬語を使う者は少ない。
少しづつ仲良くなって、分かり合えたらそれで良いと陽良子は思う。
言葉の大切さが、身に染みて分かった。
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