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ジーン…。
感動して目頭が熱い。
シャムレックは『頑張ったね』と言ってくれた。
ヨハンは『この程度で?』と貶す。
「ヨハンは完璧主義者なんだよ。僕は別に良かったのに…ミタリア語、僕が教えるべきだったね…謝るのはこっちの方だよ…ごめんね?」
「…ありがとう…シャムレック…優しいね…」
優しく微笑むシャムレックの目は、嘘を付いていなかった。
ヨハンは冷たい目をして、笑っていてもきっと心の中では失笑している筈だ。
あの目は…嫌い。
「良し!じゃあ僕達もヨハンをビックリさせようか?これから君はダンスやマナー、色々な習い事をさせられるだろうから、黙っていたらきっと僕達が会えるのはずっと先になっちゃう!陽良子に良い物をあげるよ」
キョトンとした顔でシャムレックを眺める陽良子。
シャムレックは悪戯っぽく笑う。
「メッセンジャーさ」
「メッセンジャー?」
「そう、僕と君が内緒で会える様に、素晴らしいメッセンジャーを君に…おいで!プラトン」
そう叫ぶと、庭から一匹の小さな犬が尻尾を振りながらやって来た。
毛がモサモサしていて、目が何処にあるのか分からない。
「彼はプラトン。僕の友達なんだ。彼に秘密のメモを渡して、君に持って行かせる。君も僕同様にメモを渡して?プラトンは頭のいい子だから、ヨハンに気付かれずに立派なメッセンジャーとして働いてくれる筈だよ!」
真っ白な雪に同化する様な毛並。
人なつっこくて可愛い。
陽良子と少し戯れると、直ぐに仲良くなった。
「可愛い!」
「…君の方が可愛いよ」
…は?
呆けていると、シャムレックの顔が近付いて、頬を軽く吸った感触と音がした。
雪の様な白い肌。
「…ごめんね…陽良子、頑張ってね…」
「…うん…」
シャムレックは陽良子と少しの間だけ手を繋いで、ゆっくり離す。
「シャムレック」
「何?」
「ねぇ、また…何か作ってあげるから…あの…」
シャムレックは何だかとてもか細く、今にも消えてしまいそうな予感がした。
不思議…何だろう…シャムレックは本物の雪みたい。
「ありがとう陽良子!秘密の密会、楽しみにしてる。次は巻き寿司が良いな!」
手を振って別れた二人。
また…会えると良いな…。
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