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広い車の中で陽良子は暴れた。
誘拐だ!人身売買だ!
お父さん!お母さん!お姉ちゃん!お兄ちゃん!お祖母ちゃん!ポチ~!
助けて~!
「陽良子様、びしょ濡れですね。これでは飛行機に乗れません。着替えて下さい」
隣に居る謎の外国人は大きな袋から服を取り出す。
だが、陽良子は思いっきり暴れていた。
「助けてぇぇ!」
「…仕方ありませんね…」
青年は陽良子の両手を掴み、押し倒すと懐からナイフを取り出した。
キラリと光るナイフに陽良子は身を竦める。
「動くと刺しますよ?」
そう言って陽良子の肌を傷付けない様にナイフで服を裂いた。
「ヒッ…!」
露になった素肌。
知らない外人。
「…犯されるぅ!」
「誰が犯すんですか?こんな幼児体型を犯す程、私は飢えておりません」
ムカッ!
幼児体型だとぉ…。
陽良子は構わず青年の腹に蹴りをお見舞いした。
だが、全く動じていない。
「嫌ならご自分で着替えて下さい」
下着から全てキッチリ揃えてある。
陽良子は慌てて服を着た…が。
「…夏なのに…何これ…真冬並の服…」
「ミタリア王国は一年中寒い国です。着きましたら分かると思いますが…とても寒いのですよ?」
「知るか!何でアタシがそんな所に行かなきゃいけないんだ!」
「貴女は殿下に選ばれた女性です。当たり前の事を仰らないで下さい」
何が当たり前なのか分からない。
何でそうなるよ!
「殿下はニホンが大好きで、旅番組も好んで観ていらっしゃいます。偶然貴女をご覧になって、大変気に入られたご様子でした。貴女をミタリア王国第三王子の妻として迎えたいと」
青年は微笑んでばかりだ。
陽良子は余りにも壮大なスケールの話に頭のネジがポロンと外れて意識を手放した。
「失神する程光栄なお話でしたか?それは良かった」
ニコニコ笑ったまま、青年は脇腹に手を添える。
私に蹴りを食らわせる等…なんて下品な女だ。
優しい笑顔に隠れた裏の顔。
チラリと横目に見た少女。
『これ』に価値がなければそれで良い。
価値が無ければ意味が無いのだから…。
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