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僕と悠は猛烈に悩んでいた。
「よし、ジャンケンで決めようよ。」
「いいよ。ジャンケン・・・」
「ちょっと待って!」
僕は両手をひねり上げ何を出すかを考えた。それほど重要なジャンケンなのだ。
「よーし、いいよ!・・・ジャンケンポン!」
グーとパー。僕が負けてしまった。
「やった!じゃあ俺が持ってくるからな。」
「うん・・・」
僕は泣きそうだった。世界が終わったような気がした。それと同時に心臓の音が早くなり、軽い過呼吸を起こしそうだ。
「ちょっと待ってろよ。」
そう言うと、悠は走って行った。僕のドキドキは益々早くなる。目には少し涙を溜めていた。悠が走って戻って来た。
「オッケー。はい。」
僕は手渡された箱を見た。
『OLの性 12』
「なんでこれなの?」
「だって恥ずいから、手前にあったの取って来たんだもん。じゃあ借りてきてな。」
悠は一仕事終え、満足気な顔をしている。ここからが僕の仕事だ。このビデオをカウンターに出し、借りるという大仕事が待っている。今までの人生の中でこんなに緊張した事があっただろうか。運動会の三倍ぐらい緊張する。
「早く行けっちゃ。」
悠がニタニタしながら僕をせかす。一発ぶん殴りたかったが、僕にはそんな余裕はなかった。巨大な岩に追いかけられている。そんな気分だった。きっとインディー・ジョーンズはこんな気分なのだろう。
「わかった。行ってくるよ。俺の生き様見とけよ。」
僕は悠の笑顔に見送られ、カウンターに近づいた。店員が若い男の人だ。チャンス!きっと男ならこの苦しみをわかってくれるだろう。
「これ、お願いします。」
僕は俯いたままビデオを差し出した。
「会員証お願いします。」
あれ?女の人の声だ。僕が顔を上げると、そこには四十ぐらいのババアが立っていた。さっきまで居た男の店員は奥でビデオの整理をしている。こんなはずでは・・・僕は引き下がれず、お父さんの会員証を出した。女の店員はビデオと僕の顔を交互に眺めている。僕はその場から逃げ出したかった。実際走って逃げようかと思った。しかし会員証が人質に捕られていた。
「あのね僕。これは僕が見るようなビデオじゃないんだよ。」
四十女は含み笑いで僕を諭した。「うるせぇ。ババア。見てぇんだよ。」僕はそう言いたかったが、黙って「はい。」と答えた。
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