『D・T』

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 僕と悠は猛烈に悩んでいた。 「どれにすっかな。」  さっきまでのは五年前、十二歳、小学六年の僕。 「これも良いんだけどな。」  そしてこれが十七歳。今の僕。 「うーん、かなり悩む。」  僕と悠はAVコーナーで色んなビデオをあさっていた。六本目に良いパッケージのAVを発見した。ビデオを裏返して裏表紙を見る。全然違う。もう一度表を見た。うん、かわいい。裏を見る。・・・。表と裏の顔で女優の顔は百八十度違っていた。フー危ない、危ない・・・AVでは良くある事だ。借りて、見て後悔などザラにあった。今日ももう少しで四百円をドブに捨てる所だった。二十分後、僕は今日のおかずを悩み抜いた末決め、悠の所に駈け寄った。 「もう決めた?」 「ああ。」  僕は悠の手にあるビデオを見る。 「『若妻の匂い』ってなんだよ。」 「うるせぇよ。てかてめぇこそ『即尺クリニック』ってなんだよ。」 「ナースが好きなんだよ。」 「バカじゃねぇか。てかこの前俺借りたから、今日はお前の番な。」 「おう、わかってるよ。」  僕は悠にビデオを渡され、僕らはのれんをくぐった。現実の世界に一気に引き戻される。「heaven’s door」天国の扉があるなら、この一枚の薄っぺらなのれんだろう。僕が初めてこの扉を開けるのに、どれだけ苦労しただろうか。今ではなんの恥じらいも無くなってしまった。いやさずがに周りにかわいいお姉ちゃんが居ない時を見計らって、出入りしているが・・・しかし今でも変わらない事がある。それはAVを借りる時の緊張感である。今まさに死刑台に向かう、グリーンマイルを歩いている気分だ。悠が借りている姿を見るのはウケる。しかし自分が借りる時の緊張感といったら言葉に出来ない物がある。僕らは交互に借りる役を分担していた。僕は恐る恐るAV二本をカウンターに出した。今日は男の店員なのでラッキー。女の店員しか居ない時は、男の店員になるまで何十分でもCDコーナーをウロウロする。僕にはまだ女の、特に若い女の店員にAVを出す勇気がない。 「会員証お願いします。」  僕はやはり親父の会員証を出す。外見的には十八歳以上に見えるだろうが、僕はまだ十七歳だ。自分の会員証では止められるのが、オチである。お父さん、ごめんなさい。 「返却は一週間後の九月二十日でございます。」  僕は大仕事を終え、満足気な顔で悠と店を出た。 「んじゃあ、三十分後にな。」
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