『D・T』

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 僕と彼女は二人で寝ていた。付き合って一ヶ月、僕の頭の中には「SEX」の三文字しかなかった。どういう風に彼女の胸に手を伸ばすか、そればかりを考えていた。行くぞ!と思った瞬間、彼女の目がいきなり開いた。僕は正直焦った。僕の鼻息の荒さに気付いたのだろうか。彼女が一言言った。 「襲うなよ。」  そして彼女はまた目を閉じた。「襲うなよ。」どういう意味なんだ。僕の頭は混乱した。これは本当にやってはいけないのだろうか。それとも嫌よ嫌よも好きのうちなのだろうか。僕は常雄という同じクラスの奴に電話を掛けて、「ねぇ、彼女がそう言うんだけど、どういう意味?」と聞こうかと思った。常雄は僕の周りで唯一進んでいる存在だった。十五歳の中三で初体験を済ませ、その数は両指では数えられなくなっている。常雄ならこの状況でどうするだろうか?かなり聞きたい!でもこの状況で電話出来るわけもなかった。僕は彼女を見た。静かな寝息を立てている。あまりにも無防備過ぎる。チクショウ、どうしてこんなにも無防備なんだ。 「やるなら今しかねぇ。やるなら今しかねぇ。」  僕の頭の中でそんな合唱が鳴っている。 「やるのか、おい!やるのか、おい!」  僕は自分の自分に何度も聞いてみた。僕の右手が動こうとした。 「・・・やっぱ出来ねぇ・・・」  僕は負けた。いやこれは勝ったのか?自分でも分からず、目を閉じた。もちろん寝られるはずなどなかった。そして何事もなく彼女が帰り、僕は急いでティッシュの箱を取り出した。 「チクショウ!チクショウ!」  僕は泣いていたのかもしれない。後でこの話をみんなにしたら、僕は大笑いされた。悠にさえ肩を叩かれ、「ま、生きてりゃ良い事あるさ。」と慰められた。チクショウ、同じD.T.のくせに!
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