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「忍ーっ!何してたんだよっ!?」
翔也が息を切らせながら追いかけてきた。僕の肩を掴み揺さ振る。伝えたいことは山ほどあるのに、口
が震えて思うように言葉が出てこない。顔から血の気が引いていくのがわかった。
そうこうしているうちに、他の二人と青白い光を放つ彼も僕の近くにやってきた。縁と莉奈ちゃんが嬉
しそうににこにこと笑っている。だけど、彼は無表情のままで相変わらず足元は見えない。
「忍ちゃん、凄いんだよー!ここ!」
莉奈ちゃんが両手をぶんぶんと振りながら嬉しそうに言った。目が輝いているし、とても興奮している
みたいだ。頬が仄かに赤らんでいる。
何が?そう問いただしたいけど、口元は震えるだけで言葉にならなかった。
「そうそう、普通のお化け屋敷なんかより、ずっと楽しそうよ!」
縁もなんだか楽しそう。僕、お化け屋敷でさえ怖いんだけど。
青白い彼が、まだ震えも止まらず、何も話せない僕を一瞥をした。僕は一歩下がるが、扉が邪魔をする
。彼が口を静かに開いた。
「入り口は入るところ。出口ではありません。自己紹介が遅れました。私はここの案内を担当してます
、幽霊のワカ。と申します。」
「アトラクションみたいなもんらしいぜ?好きなコース選んでゴールまで行くゲームだってさ。」
翔也が笑って僕の背中と扉の間に手を差し込み、僕を押した。僕は扉から離れ、ワカさんとの距離が近
くなる。
近くで見ると、とても幼い顔つきで。僕の鼓動がゆっくりになっていくのがわかった。怖くない。笑っ
てはいないけど、敵意がないのが見て取れた。
よく、見ると青白く光っているのと、足元が見えないの以外は僕らと同じような体の作り。
「はい、皆さん幽霊が怖いものだと思っているようで。そういったイメージを無くす為の活動としてゲ
ームをしていただこうかと。」
あ、笑った。
ワカさんの笑った顔は可愛らしかった。幼さゆえの独特な笑顔。その敵意の見えない笑顔を見て、僕の
警戒心は失せていった。
口の震えも止まり、身体も熱を帯びてきた。落ち着いてきた。そう自分でわかるくらいに。
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