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「ワカさん、忍はどうなるの?」
「しばらくしてからのスタートになるだけですよ。ご心配は入りません。私がついていますので。その
うちお選びになりますよ。」
縁が心配そうにワカさんへと問いかた。ワカさんは笑顔を向けて答えると、縁に一礼する。礼儀正しい
ワカさんの返答に安心したのか、三人は口々にいってきまーすと僕に手を振り各々の入り口へ駆けて行
ってしまった。
残ったのは僕とワカさんだけ。
「さて、忍さん。お選びにならないと、本当に出口へは行けませんよ?」
何も話そうとしない僕に痺れを切らしたのか、ワカさんが話を切り出した。口調は淡々と言った感じで
感情が読み取れない。気まずい雰囲気があたりに流れた。
「……ちょっと、皆のところ行ってから考えるよ。」
一人になると、今まで収まっていた不安が首をもたげてきてしまう。僕は何故か焦っていた。ワカさん
の返答も聞かずに、僕は青い光へと早足で向かって行く。
青い光が段々と大きくなる。ちらりと後ろを振り返ると、ワカさんは何も言わず静かについて来ていた
。顔は無表情。青い光が漏れているその場所には、大きな扉が聳え立つ。
「……。」
もう一度ワカさんを見るが、無表情のまま僕を見るだけで何も話そうとはしない。僕は見てもいいのだ
と勝手に解釈し、光が漏れる隙間からその中を覗き込んだ。
「っ!!!?」
大きな声が出たと思った。出たと思ったけど、出てなかった。
「ガガガガボボっ!!!」
目の前に広がる光景。幾千もの手が壁から生えている。そして、水を張った大きな窪み。その中にも手
が無数に存在している。それよりも驚いたのは、その手に捕まれて水の中に引きずり込まれている物。
縁だった。
縁が、必死に水の中で手を動かしもがいている。肌はだんだんと白くなっていく。
「あっ……。」
「人魚になるためですよ。水中でも呼吸ができないといけませんから。貴方は、何を選びますか?」
扉から遠のいた僕に、淡々と言うワカさん。さっきとは違い、冷たい引き離すような声。"何を選びます
か?"僕の頭で言葉がリピートされる。
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