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縁と目があった。血走った目。青白くなった唇。何かを訴えるように彼女は口を動かした。しかし、もれるのは空気の泡。彼女は再び苦しそうな顔をする。それらが僕の目には映りだされていた。
本当は助けなきゃいけないのかもしれない。けれど、僕はそれ以上扉の中に入れなくて。いや、これ以上この場にいられないと、そう思った。
だから僕は、いてもたってもいられずに走った。
怖い。怖いどころの話じゃない。冷や汗が止まらない。いったいここは何処だって言うのか。
走って、どこだかもわからず走って。
止まった先は赤い色。
ずずずず
何かを引きずる音を僕の耳が捉えた。赤い光が漏れる先をつい凝視してしまう。
「だ、だれ!!?」
「……し、忍?」
赤い光の先から僕の名を呼ばれた。呼んだのは知ってる声。
「翔也!?翔也なの!?」
良かった。翔也は生きてるっ。安堵して、僕は駆け寄ろうとした。けれど、次の瞬間見えたものによって、僕は足を止めた。赤い光の先からでてきたのは、手。普通の手なんかじゃない。赤い光と同じ色をしたものがびっしりと付いている。それが血だとわかるのに数分も掛からなかった。
「た、助けて……くれ。」
「うぅ……。」
僕は一歩後ずさる。手は床に指を食い込ませながら、ゆっくりと地面を這いずってこちらまでやってくる。もちろん、手の後についているソレも姿を現した。頭から、目から、口から、赤いソレが出ている。
血まみれの翔也。
僕は吐き気がした。むしろ吐いてしまいたい。何より見たくないと思ったのは腰より下。腰より下が、ない。のだ。ない。引きちぎられたように皮が破れていたり、肉が見え隠れしている。
僕は口を押さえて踵を返した。忍。と呼ぶ声が聞こえたけど、もう振り向く勇気なんて無い。走って、走って。ただ走った。走っている最中に、風が耳元で囁いた。
「ケンタウロスになるのに、人間の下半身はいらないですから。さあ、貴方は何を選びますか?」
冷たい声。心臓が痛い。目から汗なのか涙なのかわからない液体が出てくる。もう息がだんだんと荒くなってきていて、体力の限界なんだ。と体が訴えかけている。
もう、へとへとで、座り込んでしまったその場所。緑色。どうしても逃げられないその色たち。
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