プロローグ

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「さくら、きれいだね」 俺がそう言うと、両親は笑顔を返した。 綺麗な物を見ると気分が明るくなるのは、誰でも同じだ。 二人の笑顔はとても眩しく、それもまた綺麗だった。 「そうだね、綺麗だね」 「じゃあ今度、皆で花見に行こうか。お弁当を持ってな」 親父の提案に、俺はすかさず首を縦にぶんぶんと振った。 数日後に行った花見でも、桜はまだその華やかな姿を保っていたのを覚えている。 今思えばあの春は、例年よりも桜が長く咲いていたもんだ。 俺は二人の手を引っ張り走り出す。 思い立ったが吉兆、という言葉が、昔の俺にはピッタリだと思う。 桜を見て高揚した気持ちは、走り出す事を止めようとしなかった。 桜の花びらの中、小学校に向かう俺達は笑顔だった。
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