プロローグ

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正直、入場してからの記憶は全く無い。 向けられた拍手の大きさに、忘れかけていた緊張が戻ってきたのだと思う。 頭の中は真っ白な状態で、ガチガチになりながら入場したのだろう。たぶん。 気付けば二年生達の歓迎の歌が終わった所で、俺は皆を見て慌てて拍手をした。 沸き上がる拍手に負けまいと、精一杯手を叩いた。 ちなみに我が母校では伝統的に、歓迎の歌は二年生が披露する事になっていたらしい。 ……正直覚えていないが、その翌年に俺も一年生から不馴れな拍手を浴びたのだろう。たぶん。 拍手が止んだ頃には、掌はヒリヒリと痛んでいた。 明らかに叩き過ぎである。加減も大事だぞ、俺よ。 俺は手を擦りながら、何となしに隣を見た。 この時、よく分からんお偉いさんが何か挨拶していたのだが、そんな事はどうでもいい。 そして――俺は初めて、体が固まって動けなくなる感覚を味わう事になる。
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