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少女をよく観察してみると、話に集中していることが見てとれた。
少女を観察する等、今の俺が行えば塀の中に全速力で飛び込むようなものだが、当時の俺は気にしない。
呆れる程に隣を凝視していた俺は、もしかしなくともかなり『変』だっただろう。
少女は背筋を伸ばし、凛とした目付きで前を向いていた。
綺麗な髪は全く揺れる事なく、少女が礼儀正しい姿勢を保っている事を物語っている。
大勢の大人に囲まれ、親と別れて一人きりだと言うのに、全く肝が据わっている。
少女の瞳には、一切の不安が感じられなかった。
(まっすぐな目だなあ)
その瞳は、周りの生徒達とは明らかに異なる光を帯びている。
希望や期待などが入り混じった、まるで自分と同じような輝き――。
(……?)
その時俺は、「何か」を少女に感じた。
それが何なのかは、当時の俺が知る術は無い。
お偉いさんの話が終り、再び盛大な拍手に体育館が包まれる。
俺は逃げ出したいような、叫びたいような衝動に駆られた。
少女の存在が、自分の思考回路を埋め、狂わせていく。
拍手もそこそこに、俺は訳の分からない感情に首を傾げていた。
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