堀田滋の場合

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   おとうさん、どうしたの?    幼い、可愛らしい声が耳に入り、堀田は自分の息子を見た。  思い切り抱き締めた。  涙が溢れて止まらなかった。    本当に信じられるのはお前だけ。本当に愛しているのはお前だけ。    息子に問うた。    お父さんのこと、好きか?    息子は満面の笑顔で、大好きだよと答えてくれた。  だが。      おかあさんもおなじくらいだいすきだよ。      その無垢な言葉に、堀田は凍り付いた。  息子が、自分と同じくらい好きだと言った母を、奪ってしまった。  憎しみと怒りが、罪悪感に塗り潰された。    人殺し。    そうだ。自分は。      ――ひとごろし。      堀田は警察に電話をし、妻と子供を殺したと言った。    長男は生きているから、どうか宜しくお願いします。    そう言って電話を切り、家を飛び出した。        死に場所を求めて。
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