冬/真夏日

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「あっちぃ……」   アスファルトがじりじりと溶ける様な陽射しに、思わず舌打ちをした。   まったく、ふざけた天気だ。   うだる暑さの中、足を引きずるように歩き続け、僕はとうとう目的地にたどり着いた。   あまり力の入らない手でノブを握り、そのまま捻ってドアを開ける。 聞き慣れたベルの音を後ろで聞き、これまた聞き慣れた声が奥の方から響いた。   「いらっしゃいませ……って、なーんだ、雅哉(まさや)か」   かしこまった声はしかし、僕の姿を見るなりタメ口に変わった。   「僕じゃ不満か?」   いつも座る席に着き、悪戯っぽく笑みを浮かべた。   「何言ってんの。ほら、いつものやつ」   終始無表情で彼女は言い、僕の前にオレンジュースを置いてカウンター越しに向かい合った。   「ありがとう」   湿気ってるコップを持ち、口へと運んだ。 気持ちいい冷たさで、欲するまま一気に飲み干してしまう。   一息ついてコップをテーブルに置くと、氷がぶつかり合い冷たい音を立てた。   「んで、今日はアイツと一緒じゃないの?」   空のコップを脇によけ、彼女は聞いた。   「あぁ、アイツなら家に引きこもってるよ。『クーラー直った!』って騒いでたからな」   その様子が安易に想像できたのか、彼女はクスッと笑った。   「アイツらしいね」   まったくだ、と僕も笑った。   「そういえば、今何月だっけ?」   不意に、彼女が聞いた。   「何月……?」   ポケットから携帯を取り出し、開く。   「あぁ、思い出した」   そう声をあげ、用済みになったそいつをポケットに仕舞い、彼女に向き直った。   「今は2月だよ、凪沙(なぎさ)」   陽射しは未だに窓から差し込み、室内に熱気を送り続けていた。
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