冬/真夏日

2/8
76人が本棚に入れています
本棚に追加
/107ページ
「あっちぃ……」   アスファルトがじりじりと溶ける様な陽射しに、思わず舌打ちをした。   まったく、ふざけた天気だ。   うだる暑さの中、足を引きずるように歩き続け、僕はとうとう目的地にたどり着いた。   あまり力の入らない手でノブを握り、そのまま捻ってドアを開ける。 聞き慣れたベルの音を後ろで聞き、これまた聞き慣れた声が奥の方から響いた。   「いらっしゃいませ……って、なーんだ、雅哉(まさや)か」   かしこまった声はしかし、僕の姿を見るなりタメ口に変わった。   「僕じゃ不満か?」   いつも座る席に着き、悪戯っぽく笑みを浮かべた。   「何言ってんの。ほら、いつものやつ」   終始無表情で彼女は言い、僕の前にオレンジュースを置いてカウンター越しに向かい合った。   「ありがとう」   湿気ってるコップを持ち、口へと運んだ。 気持ちいい冷たさで、欲するまま一気に飲み干してしまう。   一息ついてコップをテーブルに置くと、氷がぶつかり合い冷たい音を立てた。   「んで、今日はアイツと一緒じゃないの?」   空のコップを脇によけ、彼女は聞いた。   「あぁ、アイツなら家に引きこもってるよ。『クーラー直った!』って騒いでたからな」   その様子が安易に想像できたのか、彼女はクスッと笑った。   「アイツらしいね」   まったくだ、と僕も笑った。   「そういえば、今何月だっけ?」   不意に、彼女が聞いた。   「何月……?」   ポケットから携帯を取り出し、開く。   「あぁ、思い出した」   そう声をあげ、用済みになったそいつをポケットに仕舞い、彼女に向き直った。   「今は2月だよ、凪沙(なぎさ)」   陽射しは未だに窓から差し込み、室内に熱気を送り続けていた。
/107ページ

最初のコメントを投稿しよう!