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ドアが軋む音を響かせ、僕は屋上に出て、そのままふちの柵にもたれ天を仰ぐ。
「あっちぃな……」
高かった日差しが間近で、更に真上にあるとなれば、地上にいた頃よりも暑さが激しいのは当たり前だ。
若干潮の匂いが混じった風が唯一の救いだが、それも焼け石に水。
さっきまでの意志が一瞬でそがれそうになったが、手で日陰を作り何とか持ちこたえた。
「日射病になりますよ?」
ふと声をかけられ振り返ると、先程の色白の娘、奈津が立っていた。
「そんなに長居はしないよ」
僕がそう答えると、そうですか、と言って僕の方に寄ってきた。
「ここ、海が見えるんですよ」
指さした先には、光り輝く水面が波立っていた。
「星宮海岸か」
地元の観光地になっているそこは、訪れたならば一度は行く有名なスポット。
そのせいなのか、僕らの町は小さいながら、夏になると見知らぬ人で溢れ返っていることが多い。
「私、あの海で遊ぶのが夢なんです」
小さく漏らしたその言葉には、とても大きな願いが込められている気がした。
「行ったこと無いのか?」
僕が尋ねると、彼女は小さく頷いた。
「生れつき体が弱くて……でも、最近めっきり良くなってきたんですよ。だから神様がくれたこの長い長い夏の間に、一度は行ってみたいなぁって」
そう言って微笑む奈津。
その笑顔はあまりにも儚くて、夏には似つかわしくない表情だった。
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