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「良くなったら、連れてってやるよ」
自然と、そんな言葉が僕の口から出ていた。
その台詞に奈津は不思議そうな顔をしてたけど、僕自身も不思議でならなかった。
何で見ず知らずの病人にそんな約束をしてあげたのか。
同情? いや、ちがう。
多分、似ていたのだろう。
……彼女と、奈津が。
「良いんですか……?」
おずおずと尋ねる奈津に、僕は笑ってみせた。
「あぁ。僕の友達も了承してくれるだろ。――なぁ、凪沙?」
途中から、扉の後ろでこちらの様子をうかがっていた凪沙に向けて言った。
「バレてたんだ……」
恥ずかしげに鼻の頭を掻きながら凪沙は顔を出した。
「で、海行くよな?」
もう一度聞いてみると、笑顔で頷いた。
「と、いうわけで。早く治して海に行くぞ?」
「はい! ありがとうございます! ……えーっと、お二人の名前は?」
その一言で僕たちは自己紹介がまだだった事を思い出した。
「雅哉。よろしく」
「凪沙よ。よろしくね」
僕たちが言い終えると、奈津はその名前を反復し、頷いた。
「わたしは、奈津って言います。お二人共、よろしくお願いしますね」
……こうして、僕たちは奈津という新しい友達と出会った。
未だに仲良くなれたきっかけは何一つわからない。
けれども僕たちは、先程交わした約束――海に行くという約束――で結び付けられているということだけは、確かだった。
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