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ブレットが出ていった後も、少女はしばらくの間外を見つめたまま呆然と立ち尽くしていた。
「おい、嬢ちゃん」
ウィルの自分を呼ぶ声でようやく現実に引き戻された気がした少女は、ウィルへと視線を向ける。と同時に、何かが少女に向けて投げられた。慌てて少女はそれを受けとる。
「あ……鍵?」
受け取ったそれはナンバープレートが付いた鍵であった。
「二階の部屋の鍵だ、シャワールームは部屋に付いてる。自由に使って構わないからな」
しかし、少女は困惑した。自分の事を何故ここまで気にかけてくれるのか、分からなかったからだ。
「あの、私」
「気にするな、別に後で何かを要求する様な事はしねぇよ」
「あの、なんで私にここまで?」
ウィルは苦笑しながら答えた。
「あのブレットの馬鹿が嬢ちゃんを助けると決めたからだ。嬢ちゃんを雑に扱ったら、あの馬鹿は怒り狂うだろうな」
そう言われても、少女にはどこかピンと来ない。
「それに、あのロイコフを殺せって依頼が他にも来てたからな。奴はこの街にいる【本物を怒らせた】縄張り拡大なんかしねぇで大人しくしてりゃあ、ちっとは長生きできただろうによ」
ウィルは目を細めながらそう吐き出した。その言葉を理解できない少女の怪訝そうな視線に気付き、ウィルが一つ、大きな咳ばらいをする。
「ま、とにかく待つんだな。あの馬鹿の腕は確かだ」
今の少女にはその言葉と青年を信じるしかなかった。
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