1セントの弾丸

2/14
81人が本棚に入れています
本棚に追加
/37ページ
「朝から酒なんて飲むんじゃねえよ餓鬼」  店のマスターであるウィルが、厳つい皺だらけの顔を目前の青年に向けて、厳しく言い放つ。店のジュークボックスからは聞き飽きたブルースが聞こえてくる。 「じゃあ、この店にいる他の客にも今の台詞を言ってやれよオッサン」  餓鬼呼ばわりされた青年はカウンターに顔を俯せに乗せ、気怠そうに答えた。 「それと」  青年が顔を上げ、寝ぼけたような瞳でウィルを見据える。 「いつまでも俺を餓鬼扱いするんじゃねえよ。もう今年で23だ、多分」  それだけ言うと、また顔を俯せた。  自分の年齢を言うのに多分とは妙である。だがこの街で生まれ、母親も父親も良く解らないまま育った青年。自分の正確な歳や誕生日を言えない者は、この街には少なくなかった。 「はっ、ケツの青い餓鬼が言うようになったな……。おい、ブレット」  ブレットと呼ばれた青年はまた気怠そうに顔を上げた。 「……なんだよ」 「仕事しろ」  ブレットは椅子ごと後ろを向いて盛大な溜息を吐き、ウィルを見ないまま答えた。 「無ぇんだよ。ここ最近は美味い仕事が全然だ」 「てめぇが仕事を選ぶからだろ」 「反省してんよ、だからよぉウィル、何か仕事紹介してくれ! この通り!」 くるりと椅子を回し、顔の前でお願いとばかりに手を合わせるブレット。ウィルが呆れた表情を浮かべたまま言った。 「まあ、お前が本当に仕事を選ばないって言うんなら……無い事も無い」 「本当か?!」  ブレットはカウンターに身を乗り出す。 「ああ、最近――」 と。  突如響くけたたましいブレーキ音。  前の通りに何台もの車が止まった様だ。 「なあオッサン」 「なんだ?」  空気が変わった。 「今日は【連絡】あったのか?」 「無いな」  店の客の何人かも気付いたのか、準備体操よろしく、腕の骨を鳴らす者 や、グラスに入った酒を急に煽る者もいる。 「またタンマリ金が入るな」 「ああ」 「店をでかくすんのか?」 「いや、これ以上はしねぇ、内装に力を入れるさ」  まるでウィルのその言葉が言い終わるのを待っていたように、酒場の扉が乱暴に開かれ、ガラの悪そうな白人系の男達が数人飛び込んできた。 「はぁ、全く。“ご機嫌だな”」  溜息を吐いたブレットが呟いてカウンターに飛び込むのと、白人の男達がUZIを乱射するのはほぼ同時であった。
/37ページ

最初のコメントを投稿しよう!