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「朝から酒なんて飲むんじゃねえよ餓鬼」
店のマスターであるウィルが、厳つい皺だらけの顔を目前の青年に向けて、厳しく言い放つ。店のジュークボックスからは聞き飽きたブルースが聞こえてくる。
「じゃあ、この店にいる他の客にも今の台詞を言ってやれよオッサン」
餓鬼呼ばわりされた青年はカウンターに顔を俯せに乗せ、気怠そうに答えた。
「それと」
青年が顔を上げ、寝ぼけたような瞳でウィルを見据える。
「いつまでも俺を餓鬼扱いするんじゃねえよ。もう今年で23だ、多分」
それだけ言うと、また顔を俯せた。
自分の年齢を言うのに多分とは妙である。だがこの街で生まれ、母親も父親も良く解らないまま育った青年。自分の正確な歳や誕生日を言えない者は、この街には少なくなかった。
「はっ、ケツの青い餓鬼が言うようになったな……。おい、ブレット」
ブレットと呼ばれた青年はまた気怠そうに顔を上げた。
「……なんだよ」
「仕事しろ」
ブレットは椅子ごと後ろを向いて盛大な溜息を吐き、ウィルを見ないまま答えた。
「無ぇんだよ。ここ最近は美味い仕事が全然だ」
「てめぇが仕事を選ぶからだろ」
「反省してんよ、だからよぉウィル、何か仕事紹介してくれ! この通り!」
くるりと椅子を回し、顔の前でお願いとばかりに手を合わせるブレット。ウィルが呆れた表情を浮かべたまま言った。
「まあ、お前が本当に仕事を選ばないって言うんなら……無い事も無い」
「本当か?!」
ブレットはカウンターに身を乗り出す。
「ああ、最近――」
と。
突如響くけたたましいブレーキ音。
前の通りに何台もの車が止まった様だ。
「なあオッサン」
「なんだ?」
空気が変わった。
「今日は【連絡】あったのか?」
「無いな」
店の客の何人かも気付いたのか、準備体操よろしく、腕の骨を鳴らす者
や、グラスに入った酒を急に煽る者もいる。
「またタンマリ金が入るな」
「ああ」
「店をでかくすんのか?」
「いや、これ以上はしねぇ、内装に力を入れるさ」
まるでウィルのその言葉が言い終わるのを待っていたように、酒場の扉が乱暴に開かれ、ガラの悪そうな白人系の男達が数人飛び込んできた。
「はぁ、全く。“ご機嫌だな”」
溜息を吐いたブレットが呟いてカウンターに飛び込むのと、白人の男達がUZIを乱射するのはほぼ同時であった。
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