散花 1

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家を出た後は、小さな工場の親方に拾われた。 運が良かったんだと思う。 気のいい人だった。 ただで住まわせてもらうのも気がひけたので、工場の手伝いをさせてもらった。 子どものクセに変なところに気を使わなくていい、そう言われたけど、それでは俺の気が済まなか った。 少しずつ、少しずつ仕事を教えてもらった。 元々手先は器用なほうだった。 何かを組み立てたり、分解したりという仕事はとても面白かった。 何より、俺に出来る事があった、ということが嬉しかった。 そうやって、過した数年間。 それは穏やかで、とても楽しかった。 でもそれにもやがて終わりがくる。 壊したのは、俺。 他にも方法は多分あったのかもしれない。 だけど、俺にはこれしか思い浮かばなかった。 親方の所には、俺のほかにも同じように住み込みで働いている人が数人いた。 その中でもとりわけ、俺をかまってくれてた人がいた。 『いいひと』だと思った。 いや… 思ってた。 ある日、その人が工場のお金を持ち出そうとしている現場に居合わせた。 それを見なければ、俺は多分、この先もずっとこの人を慕っていたのだろう。 だけど見てしまった。 今まで、この人から貰ったものは全部… 全部親方のお金を盗んだもので買われたものだったことを理解した。 『内緒だよ』 そう言ったその人の顔は… 母の周りにいた男達の顔を思い出させ、吐き気がした。 俺に背を向けた瞬間俺の頭は真っ白になる。 何があったのかなんて、その時の記憶はない。 だけど、気がつけばその人は床に倒れていた。 俺はいつも着ている作業着の懐に入っているレンチを手に持っていた。 真っ赤に染まった、レンチを… 倒れたそいつの頭からは面白いほどに赤いモノが流れ出ている。 あたり一面が、赤に染められる。 綺麗だ… そう思った。 狂った親からはきっと、狂った子しか産まれないんだろう。 ここにはもういられない。 いても、迷惑をかけるだけだ。 俺はそのまま工場を出た。
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