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ちょこちょこと俺の隣りを歩く少女。
せわしなく足を動かしているものだから、そんなに急がなくてもいい、と歩調を落としてやれば彼
女は俺を見上げてにっこりと笑った。
「あ。ねぇ、名前、聞いてもいーい?」
「……なま…え…?」
「うん。あ、私はこのはっていうの」
「このは…」
反芻するように呟いてみれば、このはは嬉しそうに笑った。
この笑顔には覚えがある。
名前を呼んでもらえる喜び。
自分がここに存在するという証。
名前を呼んでもらって、初めて認められる。
自分という存在を…
多分、このははそんなことを思ったのではないだろうか。
俺がずっと待ち望んでいた事。
母から名前を呼ばれることを…
それは結局、叶えられる事はなかったけど。
「俺は…散花、だ…」
「散花…いー名前だねぇ」
いい名前なのかはわからない。
何せ『散る花』だ。
だけど、花が散れば葉が育つ。
葉が育って、散って、そしてまた花が咲く。
そう思えば、少しは『いい名前』とも思えるかもしれない。
「……ありがとう…」
名前を呼んでくれて。
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