散花 1

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ちょこちょこと俺の隣りを歩く少女。 せわしなく足を動かしているものだから、そんなに急がなくてもいい、と歩調を落としてやれば彼 女は俺を見上げてにっこりと笑った。 「あ。ねぇ、名前、聞いてもいーい?」 「……なま…え…?」 「うん。あ、私はこのはっていうの」 「このは…」 反芻するように呟いてみれば、このはは嬉しそうに笑った。 この笑顔には覚えがある。 名前を呼んでもらえる喜び。 自分がここに存在するという証。 名前を呼んでもらって、初めて認められる。 自分という存在を… 多分、このははそんなことを思ったのではないだろうか。 俺がずっと待ち望んでいた事。 母から名前を呼ばれることを… それは結局、叶えられる事はなかったけど。 「俺は…散花、だ…」 「散花…いー名前だねぇ」 いい名前なのかはわからない。 何せ『散る花』だ。 だけど、花が散れば葉が育つ。 葉が育って、散って、そしてまた花が咲く。 そう思えば、少しは『いい名前』とも思えるかもしれない。 「……ありがとう…」 名前を呼んでくれて。
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