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「……そういえばここには、このは以外の人間はいないのか?」
少し照れくさくて、話題を変える。
すると、手を握る力がふいにこめられた。
「……このは…?」
ただでさえ大きな瞳をさらに大きく見開きながら俺を見上げてくる。
何か変なことを言っただろうか…?
「人間…」
「……?」
「私を…人間って…言って……くれるの…?」
「…………」
確かに…。
人間では持ちえない耳の形をしている。
他にもまだ、普通とは違う外見をしているのかもしれない。
だけど、それだけだ。
他はまるっきり何も変わらない。
外見で人を判断したら、キリがない。
ただ少し、他の人と違うだけ。
ただ、それだけだ。
「あぁ。このはは、人間だ」
俺はしっかりと頷いた。
このはは、俺の手をぎゅっと握り締め、顔を歪めながら笑った。
外見から想像できる歳とは不釣合いな笑顔。
何かをようやく認めてもらえた、という…
そんな笑顔。
このはと俺は似ている。
なんとなく、そう思った。
俺は母から認めてもらいたかった。
このはは、人だと認めてもらいたかった。
種類は違えど、根本的なところは同じ。
ただ、誰かに認めてもらいたかったんだ。
自分、という存在を…
俺が辿ってきたような道をこのはも辿ってきた。
そう思った。
「このは…」
俺は膝をついて、このはを見上げるような姿勢をとる。
戸惑い気味のこのはを、そっと抱き寄せた。
モノを壊した手で人を慈しむ。
俺の手は、汚れている。
でも、だからこそ失いたくないモノがあった。
失わせたくないモノがあった。
小さな手は、俺を抱き返してくれた。
救いたいと思ったのは、このはの心。
だけど、逆にこのはに救われたような気がした。
認めてくれた俺という存在。
繋いでくれた手は、とても温かかった。
だから、俺も…。
自己満足…エゴだという事はわかっている。
それでも、このはを救いたいと思った。
暗い水底で、独りでひざを抱えて泣いている。
そこから、引き上げてあげたいと思った。
このはは救われただろうか…?
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