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連れてこられたのは小さな家だった。
そこにたどり着くまで、やっぱり人間に会うことがなかった。
このはの話によると、どうやらここに住んでいるのはこのはだけらしい。
この街は謂わば『ゴミ』のようなもの。
動かない。
何も生み出さない。
世界からは、ここが見えていないらしい。
何故ならば『ゴミ』だから。
人間誰しもゴミになんて気をかける奴なんていない。
気にかけないから見えない。
存在そのものが無視された場所。
『そういう』シールドが張られているらしい。
俺にとってもそれは都合のいい場所なのかもしれない。
「それで?動かしてほしいものって?」
「これだよ」
そう言って開けられたドア。
その部屋は、家の外見から不釣合いなものだった。
これは見たことがある。
大型の『コンピュータ』というやつだ。
部屋の中全体にモニターやらボタンやらが埋め込まれていた。
かつての遺産。
今は無いもの。
第三次世界大戦前の世界は、文明が今よりも遥かに発達していたらしい。
だけど、先の戦争で全てが壊れた。
全てが動かなくなった。
人は再び一から作り直している。
だけど、失ったものは大きすぎて完全な修復は不可能だった。
だから今、世界は対戦前とは別の道を歩き出そうとしている。
機械たちは使えるようになれば便利な物ばかりだ。
だけど、今は殆どが使えない。
『知識』と『資源』が無いからだ。
物はあっても何に使っていいのかわからない。
また、動かすために必要なものがない。
もっとも、『政府』が全てを取り上げてしまった、という事もある。
これは一般的には知られていないことだけど、先の大戦から学んだ事らしい。
何を学んだのかは知らないけど。
俺がいた工場も、作っていたものは生活用品。
主にガスコンロとか、料理をするのに必要なもの。
『冷蔵庫』とか『レンジ』とかいうものはこの世界にない。
何故ならば『電気』がないから。
いや、無い、というのは少し語弊がある。
あるにはあるのだけど、一般の民間人が使えるようなものではないのだ。
ましてや、こんな大型のコンピュータを動かせるほどの電気なんて…
「ここがね、多分この街の電源。でも色々壊れてるし、回線もあちこち切れてる。私は、これを動
かしたいの」
「理由は?」
そう問えば、このははすごくいい笑顔でこう言った。
「復讐」
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