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雨露に濡れた草の香りは血の臭いにも似る―
―最初に述べたのは、いったい誰であったか。
濃霧。
あたり一面を、霧が、真っ白に覆っている。
地面に無造作に生えた雑草は、強烈な臭気をその大気に漂わせている。むせかえるような、濃い緑の匂い。
既に九月も半ばである。
既に色褪せ始めてもおかしくない季節だと言うのに、地に生える雑草は、真夏の中にあるかの如く、青々しい。
体感温度そのものは、決して暑い訳ではない。
だがその大気には、緑の臭気とともに、濃い熱気が溶け込んでいるのである。
草木が青々しくなるほどの、強烈な熱気。
―それは、戦を前にした武士たちの肉体から発せられる、濃厚な熱気であった。
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