壱話 開(かい)

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   刹那、少女の目元が陰ったように見えた。 《魂には仮の器をあてがっている。不便はなかろう、が。近いうちに向こうから、魂も奪いに来るだろうよ。あちらも、器と魂が揃わねば意味がないからな》  落ち着いた口調で告げた後、少女は頬杖を外し、立てた膝に投げ出すようにして、腕を休める。 「魂って」  訝しげに聞いていた輝は、茫然と自分の胸に右手をあてた。 「命、取るってこと?」  苦しそうに目元を歪め、少女を見やる。  すると、スッと青銅色の唐衣をそびいて、少女が立ち上がった。 「待って!」  言った後、はっとする。輝は、思わずといったふうに掴んだ唐衣の裾を、ばつわるそうに放し、手を引っ込めた。 「あ、の。本当に、ここ、昔の時代なの?」 《ここは、“平安”の世だ》 「平安、時代?」  緊張している問いに、少女は外見にそぐわぬ冷笑を浮かべ、あぁ、と頷いてみせた。 《豪華絢爛(ごうかけんらん)で華やかな、人の闇の、儚い現世(うつしよ)よ――》
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