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【1】
ふわり、と岩から地面へ降りると。背を向けたまま、少女は肩越しに輝を見やった。
《道を登った先に、私を奉る社(やしろ)がある。そこに、“蒼鬼(そうき)と名乗る小僧が居るはずだ。そ奴に事情を話し、助力を請え。案ずるな。高淤(たかお)の命令だと言えば良い》
言って、顔を背けると。少女は、伸びるに任せた後ろ髪をなびかせて、蜃気楼が消えるように去っていった。
それが、つい半時前のこと。
「って。歩いても歩いても、景色変わらないんですけど!」
疲れを吹き飛ばすかのように、輝は口を大きく動かして叫んだ。
右は、道に沿って上手から流れる貴船川。
左手は、姿かたちがどれも一緒の高木繁る、奥深い山。
「魔女とか鬼女とか“だいだらぼっち”とか、本気で居るんじゃないの?」
肩をいからせ、腕を振りながら歩いていく。
少女と別れた岩からの四十分間。やたら踏み込む足に力を入れ、不平不満を声を大にして、ぶちぶちと垂れている。
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