参話 葉双つ

2/25
74人が本棚に入れています
本棚に追加
/78ページ
【1】 「はい?」  思いきり、しかめっつらを向ける輝。  渡葉と一緒に、夕飯の仕度を進めていた手は、つい先程、内裏から帰って来た蒼鬼の発言に、動きを止めた。 「言っておくが、俺は報告の一端として話しただけだ。連れて来いって言い出したのは、道長様だからな」  ふてぶてしく言って、土間の台にある、茄子の漬物に手を伸ばす。  すぐさま渡葉の手に、ピシャリと阻まれるのだが。  そもそも。蒼鬼が参内を許可されている理由は、その成長と動向を、朝廷が把握しておく為。  蒼鬼の誕生は、煉鬼の封印が解ける前触れ。  ゆえに、“破滅の前兆”と陰で囁かれ、常に監視下に置かれている。  彼が闘えるまでに成長し、いよいよ煉鬼が復活するか、という時に現れた、“未来から来た少女”。  自宅である土御門殿に蒼鬼を招いた際には、時おり、豪快な笑いさえ交え悠然と構えていたという、左大臣、藤原道長公。  しかしその内に秘めたる心情は、いかなるものであったか――。
/78ページ

最初のコメントを投稿しよう!