貴方と貴女

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飛び出してすぐに少し後悔する。思ったよりずっと寒かった。だが彼は引き返すということが嫌いだった。 「? しまった…」 郵便受けを見て気付く。そういえばここしばらく郵便を取っていなかった。 無理矢理詰め込まれたチラシの類いを地面に捨てて郵便受けを綺麗にすると、1つの手紙に気が付いた。 「またか…」 見るまでもなく内容を理解する。故郷にいる家族からだ。 一応中を見てみる。内容はいつも通り、今月の生活費を振り込んだとの報告と父親からの早く帰ってこいと言う短い一文。 父親の堪忍袋もいい加減に限界らしい。父親はいつも怒りを隠す時は口数が減る。 一代で大企業を築いた、普通なら自慢の父親の命令。 だがいくら叱咤されようと帰る気はない。 彼はいわゆるニートという奴だった。 高校を卒業し、俺は田舎町の小さな繊維工場に就職した。 家族から離れたくて、都心の人混みが嫌いで……嫌なものから逃げ続けた結果。 そして工場は潰れた。 普通ならそのまま実家に帰るのだろうが彼は帰らなかった。家族の元に帰るくらいなら飢え死した方がマシだったから。 しかし飢え死はしなかった。母親が仕送りをくれたからである。 つまりはまあ、そうして出張型ニートが誕生した。 手紙を握り潰して他のチラシ同様に地面に捨てる。 彼は家族が嫌いだ。 父親の跡を継がせるために俺を産んだ母が嫌いだった。 跡を継げと、人生を勝手に操る父親が嫌いだった。 自分だけ自由気ままに、幸せに育った妹が嫌いだ。それが妬みだろう事に男は気付いていない。 そして、笑顔を浮かべながら腹の底に邪悪な考えを潜ませている人間という生き物が嫌いだった。
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