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「うるさい…」
窓の向こうで鳴く虫に悪態をつきながら起き上がる。
もう夏も終わり涼しくなってきたと言うのにしぶとい奴等だ。
これが小鳥のさえずりならば心地良くもあるだろうが……虫だ。
彼は虫が嫌いだ。
彼はエビなら好きだ。
彼は常々疑問に思うのだった。虫が苦手な人間はエビも苦手であるべきではないか、と。
伊勢海老なんてかなり怖い。あのサイズの虫を想像してみてほしい。いや、想像するまでもなくエビは虫にそっくりではないか。
しかも人間はそれを食う。そして旨い。
案外虫も旨いのかもしれない。……もちろん食う気はないしオススメもしない。
食うのは勝手だが不味くても恨まないでいただきたい。
「む?」
バシッと手元にあった雑誌で床を叩く。その下には……………やはり虫は食う気にはなれない。
ずっと気持ち悪い事を考えていたせいか、気分が優れない。
窓を開けて新鮮な空気を取り込む。夜風は酷く冷たく、しかし悪くないと思った。
「いい月だな…」
満月に見えるがかすかに形がいびつだ。これから細くなっていくのだろう。
真夜中の空に穴が空いたかのようだ。
「散歩でもするか…」
こんな時間に起きてしまい眠くもない。我ながら妙案だと思う。
携帯と財布をポケットに突っ込んで男はアパートの一室から闇夜の世界に飛び出した。
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