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肩を落として、いそいそとカメラを片付けるツバキ。
そんな彼女に声をかける者がいた。
「すみません、N-505の席はここでしょうか?」
隣の席を指差しながらたずねてきた女性に、ツバキは少し考えて「はい」と答える。
自分達の席を探す時に隣の番号を見たが、確かツバキの席よりも1つ小さい数字だったはずだった。
そして質問をしてきた女性を見て……ツバキは首を傾げた。
見覚えのある顔だ。
「真希先生?」
「あらツバキさん? それにアンリとフェイさんも」
そこにいたのは彼女達の所属する剣道部の顧問だった。
隣にはツバキの知らない淡い水色の髪の少女を連れている。
「真希か。それに……テレジア? 妙な組み合わせだな」
いや、あるいは真希くらいなのかもしれない。テレジアを捕まえて連れ歩くのは。
それにしたって新幹線の中でこの組み合わせは予想外だったのか、さすがのアンリも目を少し見開いて驚いてた。
「せっかくの連休だもの、旅行にでも行きたいじゃない」
「だが何故テレジアもいる」
どう頑張っても、この2人が連絡を取り扱って仲良く旅行をする姿がイメージできない。
そもそもテレジアの言葉はおおよそアンリ以外には聞こえないのだから、連絡など取りようがない。
加えて言うならばテレジアは金を持ち歩こうとしない。ゆえに旅行になど行けるはずがない。
ないない尽くしの状況から読み取るに、これは――
「人攫いか……」
「人聞きが悪い!? 確かにちょっと強引に連れてきたけど……同意の上よね。ね?」
アンリの発言に周りをキョロキョロ警戒しながら慌てて弁解することに夢中の真希は、自分の後ろでテレジアが首をプルプル横に振っていることに気づかない。
「まあいいか。本気で嫌なら連れて来れる筈も無いしな」
テレジアが嫌がるならば、何かしらの「幸運」によって阻まれていたに違いない。
それが無いと言うことは、手段は半ば誘拐でも、テレジア自身楽しんでいるということなのだろう。
そして今までジッと窓の外を見ていたフェイが、フイと顔を上げてたずねた。
「して、お二方はどちらに」
「京都よ」
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