貴方と貴女

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壁越しに無言で向かい合う少女と男。壁しか見えていない筈なのに、相手の姿が目に浮かんでいる。 「ぜひとも聞いてやってくれ…」 男は思った。これは願ってもないことだ。神に謝るつもりが殺そうとしてしまった少女本人に謝れるとは。 少女は思った。やはり彼は苦しんでいたのだと。そしてその理由を知れることを神に感謝した。 「どうぞ、お話しください」 男は今までの苦悩を鬱憤をここぞとばかりに吐き出した。 生まれてからずっと背負わされていた父親からのプレッシャー。 母親の期待。自由な妹への嫉妬。 家族を信じられなくなったが故の人間不信。 誰にも語ることのなかった不満が、愚痴がダムが決壊したかのように溢れてくる。 (どこが懺悔だ……) もはやただの愚痴。だけど止まらない。それこそ全てを語るまで──。 「………」 男が自分の過去を語り終わったあと、残っていたのは沈黙だった。 少女は男の過去を聞いた後、少し不満を感じた。確かに苦しい人生だったのだろうが、それだけでは川原での変貌が説明できない。 一番知りたかったことが聞けなかったのだから不満という他ない。少女はいけない事だとは思いつつも男が話すよう促してみることにした。 「それが貴方の懺悔ですか…?」 違うとわかって聞くのだから酷いと少女は思う。そして神父が帰ってきたら自分も懺悔しようと。 「………いや」 答えに少女は安堵した。懺悔に来て罪を告白しないなど、何をしにきたのかわからない。 告白しなくては神はお許しくださらないのだ。 これで彼は救われる。私が救ってあげられる、と。 少女は思う。きっと彼は病気だろうと。川原でのは発作だろうと。そして何か過ちを犯して懺悔にきたのだろうと。 『気を強く持ってください。きっと貴方は救われます。救ってくださります。貴方の罪も許されるでしょう』 返答も用意した。あとは聞くだけ―― 「ここに来る途中の川原で外国人の少女に会った」 (私?) 「俺は彼女を殺そうとした──」image=197809915.jpg
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