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「おにーさん。少し座りましょう」
半ば木ノ実ちゃんに手を引かれる形になりながら備え付けられたベンチに座ることになった。
「ありがとうございます、おにーさん。楽しいですよ」
「それはよかった。帰ったら勉強頑張らないとな」
「ぺっ。氷をさされたですぅ」
唾を吐き捨てる真似をする木ノ実ちゃん。
実際には口で言ってるあたりがなんだか可愛い。
そして氷ではなく水だ。
「でもでも本当にありがとうですよ。私は人とこうやってどこかに行くことは初めてですから」
初めて、か……
今までどんな人生を歩んできたか分からない。
十四年の殻ノ木ノ実の人生。
「後悔してない?」
「してないです」
清々しいくらいに言い切った。
「確かに生活はひもじいです。毎日毎日生きるのに必死です。一日の食費なんか五百円です」
「……」
「何か言ったらどうですか!?」
「答えづらい事なのに怒られた?!」
無茶苦茶理不尽だよ。
それにしても……食費五百円か。
あったなー俺にも。
「それでも私は殻ノ家から縁を切ったのはよかったと思っていますよ……以前の私は都合の良い道具でしたからね。おにーさんと会うまでは。だからそういうのも含めて……」
木ノ家ちゃんは笑う。
慣れない表情で俺を見つめる。
不器用だけど輝いている、そんな笑顔。
「ありがとうございます」
ありがとう。
「どういたしまして」
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