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玄関を出ると、長門がいた。
俺に近づいてきた。
「…どうしたんだ?」
と問うと、ゆっくりと、手に携えていた傘を差し出す。
「濡れるといけないから」
と一言。
…?どうしたんだ?
長門が俺を心配してくれているのか…?
受け取って、と言いたげに更にずいっと差し出してきたので、とりあえず受け取った。
すると長門は、身を翻して、雨の中を歩きだした。
「…長門!」
ゆっくりと振り向いた。
「…何?」
「…一緒に帰ろうぜ。ほら、お前だって濡れるといけないだろ?」
「…」
俺が近づいて傘の中に入れてやると、なんの感情表現もしないまま傘の中に納まった。
「…長門、濡れないか?」
俺は長門のほうに傘を寄せた。
「…大丈夫。それより、あなたが濡れるといけない」
「俺はいいよ。それに、これは長門の傘だしな」
「…そう」
長門と傘を共有して、肩を並べて下校する。
なんていうか…俺は、長門に感情があるように感じた。
無口で無表情、だけど感情はある。ただ、その表し方が分からない少女のように感じたんだ。
確かに長門は、「この銀河を統括する情報統合思念体によって作られた対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェース」なのかもしれない。しかし、長門はそれである以前に、一介の少女なのだ。
俺に傘を差し出してきたのがなによりの証拠だ。
「…長門」
「…何?」
「まあ…変なこと言うかもしれんが、俺、長門に守られてばっかで、頼ってばっかだよな…俺自身、長門のことはかなり信頼してるんだ。まあ、それで…多分、これからもすげー迷惑かけると思うんだ。あー、だから…」
「…」
「図々しいかもしれんが、これからも…よろしくな。長門」
「…」
…なんでこんなこと言ったのか自分でも分からない。
なんか、言わないと後悔しそうな…そんな気がしたんだ。気だけどな。
長門のマンションについた。
「ほら、傘返すぞ」
俺は長門に傘を返却した。
「ここまで来れば、駅まですぐだしな。向こうにつけば、後は自転車かっとばせばすぐだ」
「…だめ」
長門は俺に傘を押しつけ返した。
「それではあなたが濡れる。…借りていくべき」
「…貸してくれるってことか?」
「…」
うなずいた。
「…それじゃ、借りてくぞ。明日返せばいいよな」
「…」
またうなずいた。
「…ありがとな、長門。それじゃまた明日、部室で会おうぜ」
「…」
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